胆管細胞診の正診率は?

下部胆管狭窄の患者さんのERCPにて、胆汁および胆管擦過細胞診にてClass Vが出た。臨床経過その他より、原発性胆汁性胆管炎もしくはIgG4関連硬化性胆管炎だと思っていたのでびっくり。今後は外科コンサルトになるが、胆管細胞診がどれくらい当てになるのか調べてみた。日本語の文献で「ERCPにおける胆汁細胞診の正診率は約60%」という記述があった。結構低い。Hepatologyが参考文献に挙げられていたので、サマリーだけ読んでみた。


Kurzawinski TR et.al, A prospective study of biliary cytology in 100 patients with bile duct strictures., Hepatology. 1993 Dec;18(6):1399-403


In patients with obstructive jaundice due to biliary tract stricture a tissue diagnosis is essential because of the varied treatment options available. Radiological imaging of a biliary stricture may suggest that it is malignant, but only a tissue diagnosis can be conclusive. The difficulty of obtaining biopsy tissue has encouraged the use of cytology in this field. This study prospectively analyzed the diagnostic value of exfoliative bile and brush cytology methods. One hundred consecutive patients with biliary strictures diagnosed at endoscopic retrograde cholangiopancreatography or percutaneous transhepatic cholangiography (60 men and 40 women; median age = 71 yr, range = 31 to 91 yr) underwent biliary cytology and were divided into two groups. Group 1 comprised the first 47 patients, who were studied by means of bile cytology alone; and group 2 comprised the subsequent 46 patients, who were studied by means of bile and brush cytology techniques. Seven patients were excluded from analysis because of inadequate follow-up information. A single experienced cytologist examined all samples to determine whether they were neoplastic. Eighty-one patients had malignant strictures and 12 had benign strictures. Combined bile and brush cytology (group 2) was more sensitive than bile cytology alone (group 1) (69% [27 of 39] vs. 33% [16 of 42], p < 0.01). In the patients studied by means of bile and brush cytology methods (group 2), cytologic study of brushings was more sensitive (69% vs. 26%, p < 0.01). No false-positive results were reported in either group (specificity = 100%).


胆汁細胞診のみ(47人) v.s. 胆汁細胞診+胆管擦過細胞診(46人)の比較。タイトルは100人となっているのは、7人が不適切なフォローアップ情報のため除外されたから。あたりまえの話だが、胆管擦過細胞診を組み合わせたほうがより正しく診断できる。胆汁細胞診のみ47人のうち、42人が悪性、5人が良性だった。悪性の42人のうち、診断が正しかったのは16人(16/42=33%)。残りは見落とされた。胆汁細胞診+胆管擦過細胞診46人のうち、39人が悪性、7人が良性だった。その39人の悪性のうち診断が正しかったのは27人(27/39=69%)。悪性と診断された人で実は良性だった(false positive)というのはゼロ。

正診率は、胆汁細胞診のみで(16+5)/47=54%、胆汁細胞診+胆管擦過細胞診で(27+7)/46=74%になるような気がする。いずれにせよ、偽陽性ゼロであれば、今回のClass Vは信頼してよいということになろう。ただ、検査技師の腕や考え方にも左右されるであろうが。

B型劇症肝炎の血清マーカー

B型劇症肝炎でHBs抗原陰性例があることは知っていたが、頻度や、HBe抗原/抗体ではどうなのか、ということは知らなかった。やや古いが、Gimson et.al. Serological markers in fulminant hepatitis B, Gut, 24(1983), 615-617では、劇症B型肝炎17例と、脳症を起こさなかった急性B型肝炎17例において、各血清マーカーに差があるかどうかを見ている。以下の表は本文を読んで私が作成した。


劇症肝炎へ移行(development fulminant hepatic failure)急性B型肝炎(never encephalopathy)
17人(女性11人男性6人)17人(女性4人男性13人)
2人がHBs抗原陰性・HBs抗体陽性全員HBs抗原陽性・HBs抗体陰性
HBs抗原濃度低いHBs抗原濃度高い(P<0.001)
HBe抗原陽性 2名(12%)HBe抗原陽性 15名(88%)
HBe抗体陽性 2名HBe抗体陽性なし
HBc-IgM抗体価高いHBc-IgM抗体価低い(P<0.05)

B型劇症肝炎ではHBs抗原陰性例が存在する。17人中2人は「稀」とは言えない。必ず抗HBc-IgM抗体およびHBs抗体も測定するべき。HBe抗原/抗体については、劇症例と非劇症例でHBe抗原陽性率がそれぞれ12%、88%と対照的なのが面白い。劇症例では、免疫反応が激烈であるからこそ、セロコンバージョンが早くに起こるのであろう。

日本内科学会雑誌の3月号の過去問

日本内科学会雑誌の3月号に前年度の認定医試験の過去問の抜粋が載る。過去3年分ぐらいは必ずやること。私は5年分やった。5年前のものは、やや内容が古い印象がある。「オレンジ本」などと比較すると難度は易しめ。逆に言えば、3月号の過去問に手こずるようならば焦ったほうが良い。私は、3月号の過去問は初見で7割〜7.5割の正解率であった。試験直前には3月号の過去問は完璧にできるようにしていた。

雑誌に正解は載っているが、解説はなし。たとえ正答したとしても、少しでも疑問に思うところがあれば自分で調べるべし。大体はイヤーノートの範囲内。イヤーノートはぶ厚くなっており、もはや読み通すことはできない。「過去問→関連のあるところを参照」という使い方が効率的である。少なくとも私に関しては、解説を読むよりか、自分で調べたほうが身についた。

擦過傷の処置

「新しい創傷治癒」という考え方がある。もはや、傷を消毒してガーゼ保護というのは時代遅れ。しかし、じゃあ具体的にどういう処置をすればよいのか?

・出血がある場合はアルギン酸塩被膜材(カルスタット、ソーブザン)を貼り、乾燥させないようフィルムで密閉する
・翌日以降は、滲出量多いならポリウレタンフォーム被膜材(ハイドロサイト)、少ないならハイドロコロイド被膜材(デュオアクティブET)を、1日1回貼り替える
・受診時に止血しているときは、アルギン酸塩被膜材は省略できる

ガーゼと消毒薬が消える 日経メディカル 2008年4月号 P40

試験勉強は早めにはじめる

何を当たり前のことをと思われるだろうが、私はこれで失敗した。病歴要約の締め切りが大体2月。それから試験まで約5ヵ月。病歴要約を仕上げてから試験勉強を行っても十分間に合うだろうと考え、実際に間に合ったのだが、結果的には効率的ではなかった。過去問を一通りするだけで、専門外領域のおぼろげな記憶が再活性化される。専門外領域の基本を思い出すことで、日々の診療や病歴要約のまとめに役立つ

実際、試験勉強をしてから病歴要約の考察の甘さに気付いたりした。これだけで落ちることはないだろうが、後の祭り。また、机上の勉強と実際の臨床の勉強では肉のつき方がまったく違う。再活性化された記憶でコンサルトすると知識が身になるのを感じ、ましな質問もできる。もうちょっと早めに試験勉強をはじめておけばよかったな、という気にさせられた。過去問をさらりと流すだけでよい。暗記ものや調べないと分からない部分は後にまわしてよい。目的は記憶の再活性化だからだ。

無症候性胆石の自然経過

症状のない胆石は経過観察でよいとされている。しかし、将来どのくらいの確率で症状を生じるかは知っておくべきである。どうせ正確な数字は誰も知らないのだから、大体でよろしい。Portincasa P et.al. 2006*1によれば、2年以内に症状を生じる率が約12-30%。5年間だと10-18%。10年間だと15-30%。数字が変なのは複数の論文を引用しているから。



無症候性胆石が将来症状を生じる確率は5年間で約15%


でよいのではないか。

*1:Gallstone disease: Symptoms and diagnosis of gallbladder stones.Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2006;20(6):1017-29. Review.

病歴要約の書き方

日本内科学会雑誌に「病歴要約作成の手引き」があるので、必ず全部目を通すこと。斜め読みではいけない。手引きに従った書類を作成する能力は、医学的な能力と同じく、医師にとって重要である。たとえば、「薬剤名は原則として一般名で記載する」とある。これを怠っただけで医学的には問題のない病歴要約が減点になる。また、内科学会のホームページには病歴要約の見本があるので、すみやかにダウンロードすることをお勧めする。「後でまとめて書く」と思っている人もいるかもしれないが、1例でもよいから、一度この形式で病歴要約を完成させてみるべきである。

日常の業務でこの形式で要約を作成してもよいが、必須ではない。私は、業務で作成する病歴要約と、提出用の病歴要約は、目的が異なるゆえに書き方も異なると考える。業務で作成する要約は、今後の外来followや転院先で役立つように書く。薬剤名は(ゾロ品ならともかく)商品名で書いたほうが便利だ。文献引用もなくてもよい。入院時の経過も、外来followで不要な情報であれば大雑把でよい。

一方、提出用の病歴要約は、医学的に正しく病歴要約が書けることをアピールするのが目的である。嘘を書いてはいけないが、目的に不要な情報は書かなくてもいいし、むしろ書かないほうがよい。たとえば、私はある呼吸器疾患の症例について、入院中にたまたま便潜血が陽性であったため、大腸ファイバーを施行し、ポリペクトミーは不要であるがフォローが必要である大腸ポリープを認められたことを、提出用の病歴要約から削った。業務用の要約では削ってはならない情報である。しかし、提出用では字数制限にかかりそうなら削る。メインの呼吸器疾患について詳しく記述するほうが重要である。

評価が減点方式であることも、気に留めておいたほうがいい。要するに、余計なことは書かない。私の場合、4分の1程度の余白を残した病歴要約もあったが特に減点はされなかった(ただ、手引きに「なるべく余白を残さぬよう」とはある)。一方、考察の一部について、症例と関係が薄いとして減点された。具体的には、早期胃癌の部分胃切除術手術症例について、「○○という理由で本症例はEMRではなく開腹手術となった。現在であれば、腹腔鏡下胃切除術も検討したであろう」と書いたら、「腹腔鏡下胃切除術などに言及するのであれば、部分胃切除術についての考察をもっとせよ」というようなコメントがついた。

他人の症例を写して提出するのは論外である。バレる可能性は高くはないだろうが、バレたときの被害はきわめて大きい。リスクを評価できないのは、医師としての資質を疑う。